石田義昭の【飲食店 繁盛ダネ!】その七十四

先月も企業主催のセミナーの依頼を受けて90分ほど話をしてきました。

対象は独立開業を目指している方々ということですが、当日は70名ほどが来られていました。

今年に入ってからは特に飲食業界も厳しいことが言われているのに飲食店を魅力的に感じている人たちは多いですね。

開業しても5年以内に廃業してしまう割合が一般企業に比べて倍という危険な業界であるのに参入を考えるのは何故なんでしょう。

たぶん、飲食店を好きな方がホントに多いんでしょうね。

それと問題ではありますが簡単にみえるのでしょう。

「好きこそものの上手なれ」とはいいますが、どうもそれだけでは「経営」は上手にならないようです。

そんな対照的な店につい先日出合うことに・・・。

 

『勉強が見える店に繁盛はやってくる』

親しくしている飲食チェーンの役員からお誘いがありまして、

「いい店食べ歩きに付き合ってくださいよ。」

「いいですね。飲みながら情報交換といきますか。」

というわけで、そこらにある大手では意味がないので、知る人ぞ知るという東京の私鉄沿線で『商品』の評判の高い店をスタッフに調べてもらい店をチョイスして訪問しました。

一軒目は昔ながらの居酒屋で大衆色バリバリの個人店です。
カウンター越しに見える職人も年季が入っていそうで期待が持てました。

ただ、あまりお客様の活気が感じられないのが気になりましたが。

案内された広間には私たちだけです。

「まだ、6時なのでこれからでしょう。」

「そうですね。商品はどれもおいしいらしいですからね。」

なんて会話をしながら3~4品頼んで酒もすすんでくるとお互い本音が出始めました。

「30年以上やっているらしいから凄いとは思いますが店がなんか陰気臭くないですか。」

「うん、照明やレイアウトが古いまんまだね。」

「この広間も雑然として整理がされてないですね。」

「アルバイトはいい子たちなのに教育は全くされてない感じだよね。」

「味は確かにいいけど盛り付けや器にはまったく無頓着だよねえ。」

「メニューは見にくいし、売りもないよねえ。」

「呼ばなきゃほったらかしだし、だんだん駄目な店に思えてきたんですけど。」

「次、行きますか~。」

8時を過ぎても私たちだけの広間もさびしい限りです。

本来ならお客様がいっぱいのはずの時間、1人5000円近く払って出ましたがなんだか物足りなく、

「次の店も同じだったらいやですねえ。」

「まあ、そういう日もありますから。」

なんて話しながら2件目に入店したのでした。

ところがこちらは良かった。

明るく迎えるスタッフの方々の親切なこと、なによりお客様は正直です、いっぱいで活気がある、店も清潔感があって整理され安心感がある、メニューも見やすくて売り物のメニューはPOP でクローズアップして、スタッフの方もこれを勧めていて“売ろう”としているのがわかるし、その商品も充分レベルの高いものでした。

「先生、同じ20年以上もやっている店なのにさっきの店は先行き不安ですよね。こんなにもこの店と違うのは何でしょうかね。」

「お客様は店の総合的な評価を我々プロのように分析するのではなく、肌で感じて判断するものです。

その肌で感じるというのは感性です。

お客様の感性が時代とともに変わっているのを感じ取るのが良い経営者なのですが、感じ取る努力、感性を磨く努力をしていない経営者は自然と遅れていくんでしょうね。

我々専門家は業界を分析しながら自然に勉強してますが、経営者には難しいことなんですよね。」

長く営業していると全てのことにマンネリが生じ易く、ちょっとした欠点が出ても大勢に影響が出なければ自分に妥協してしまう経営者は多いものです。

ここに出てきた前者の店は、

「少しぐらい暗くても・・・。」

「今の器や盛付でも味は良いのだから・・・。」

「少しぐらいの汚れや整頓ができていないくらいで大きな影響は出ないだろう。」

「教育したってお客さんが増えやしないだろう。」

「しっかり見て探してもらえば、このメニューで大丈夫、わからなければ聞いてくれるだろう。」

などと小さな妥協を積み重ねた結果、後者の店とは大きな差をつけられたということです。

今、調子がいいからと油断したらとんでもない未来がやってくるのです。

「難しくても、やらないと駄目ですよね、やっぱり勉強ですね。先生が必要というわけだ。」

「ですね。」(笑)