石田義昭の【飲食店 繁盛ダネ!】その150

剣の達人であった幕末の英雄 勝海舟は、談話集『氷川清話』の中で、刺客に襲われたときの事を以下のように語っています。

文久三年のことである。

寺町通りで三人の壮士がいきなり俺の前へ現れて、ものをいわず斬りつけた。

驚いて俺は後ろへ避けたところが、おれの側にいた土州の岡田以蔵がにわかに長刀を引きぬいて、一人の壮士を真っ二つに斬った。

弱虫どもが何をするかと一喝したので、後の二人は勢いに辟易して何処ともなく逃げていった。

(中略)。

後日おれは岡田に向って「君は人を殺すことをたしなんではいけない。

先日のような挙動は改めたがよからう」と忠告したら、

「先生。

それでもあの時私が居なかったら、先生の首は既に飛んでしまっていましょう」と言ったが、これにはおれも一言もなかったよ。

(「氷川清話」より)。

経営者である我々にもあてはまることではないかなと感じてしまいました。

トップで日々を送っていると、知り合う人間もこなす仕事も普通の従業員とは違う環境で活動するため、知らぬうちに鼻が高くなって胸を張り、プライドばかり高くなって、それが態度にも出てくる、なんてことになりがちです。

でも自分一人の力で生きているわけではありませんね。

 

【経営は経営者だけでは成り立たない、ヒトに感謝しよう】

私が尊敬するレストラン社長とのミーティングでこんなやり取りがありました。

「ウチの店が口コミサイトでひどいことを書かれていましてね」という言葉で始まったその話の内容は確かに酷いことでした。

でも、なんだか嬉しいことでもありました。

この店はとにかくお客様に提供する商品は毎日気を使い、仕入れに関しても食材の吟味を忘れず、毎朝その日の主力商品は、朝味見をするくらいなのですが、その口コミでは〈このように肉が柔らかいのはあり得ないことだ、成型肉に間違いない・・・云々〉というものでした。

成型肉とは、細かいくず肉や内臓肉を軟化剤で柔らかくして結着剤で固め、形状を整えた食肉です。

牛肉の場合は赤身に牛脂や食品添加物などを注射しているものです。

決して使用してはいけないものではありません。

しかし、この店ではお客様のために本物で確かなものを、妥協せずに提供することを信条としていますからあり得ないことです。

嫌がらせなのか、わからない人間の勘違いなのかはわかりませんが、ふざけた話です。

これを見つけたのはパートの女性でした。

10数年この店に勤め、間近でその店のお客様に対する取り組みをみつめてきた彼女には耐えられなかったのでしょう。

社長と専務の奥様にそれを報告に来た時、涙をポロポロ流しながら悔しそうに話したそうです。

その様子に二人ともつられて涙が出たという話を聞きながら、なんだか石田も不覚を取ってしまいました。

お店は経営者の手腕だけではなく、素晴らしい従業員にも支えていただいているのです。

忘れてはいけませんね。

隙を突かれず、ライバルを寄せつけぬ備えを欠かさないのが経営者なら、その首が飛ばぬよう守っているのが従業員です。

護衛の武士を大切に育てましょう。

ではまた。