『食の豆々知識』 Vol.6 塩

 味のぐあいや、かげんを「塩梅(あんばい)」と表現するように、最も基本的な調味料は塩であるといえるでしょう。ですから、調味料のまずは、塩のお話。

 1997年に塩の専売制度が廃止され、製造、輸入、販売が自由化したことにより、今や、様々な個性をもった塩が流通されるようになりました。その中でも今、特に注目されているのが、自然塩の分野です。
専売制の時代は、自然塩は「特殊用塩」とされ、JT(日本たばこ産業株式会社)に認められたメーカーが、海水から直接塩をつくらないことを条件に製造していました。ですから、自然塩と呼べるものは、「伯方の塩」や「赤穂の天塩」など数少ない限られたものであり、更に、純国産の自然海水塩は、特別な名目で許可された「海の精」などのごくわずかなものしかありませんでした。
今では、村おこしのために塩田を復活させたりと、日本各地でさまざまな自然塩を製造していますが、スーパーの棚などを見ていると、岩塩のような輸入されたもの(岩塩は日本ではとれません)が主流ともいえるほど、その種類は多いように思えます。

  さて、これだけ種類のある塩をどう選んだらよいのでしょうか。また、本当に自然塩がいいのでしょうか。
 自然塩に対して、化学塩とよばれるイオン交換膜法を用いた食塩などは、安価で安定的に供給できるという利点がありますが、塩化ナトリウムの純度が高いために画一的な塩味になりがちです。やはり、ミネラルを含んでいるものの方が複雑な味わいをつくりだし、「旨み」を感じ、「まろやか」に仕上がります。しかし、「にがり」などはその名のとおり「苦み」も強く、ミネラルは多いほどよいというものではありません。素材の味が強い場合など、ミネラルがむしろ邪魔になる場合もあります。
 また、ミネラルが多く含まれているほど、吸水性が高まり、結晶が大きくなります。素材にふる塩としては扱いにくく、塩化ナトリウム99%以上の純度の高い塩のほうがさらさらし、使いやすいことは確かです。更に、食卓塩などは、防湿のため塩基性炭酸マグネシウムを多く含み、結晶になりづらく扱いやすくなっています。しかし、液体に溶かすと濁りやすく、吸い物などには不向きです。手間はかかりますが、水分を含んだ塩も乾煎りしてからすり鉢ですれば、同様に使いやすくなります。
 さまざまな個性的な自然塩は、使ったときにもその個性は表れます。価格の幅も広く、形状も様々です。性質の利点、欠点を理解し、素材、調理法にあった塩を見つけ出すのも、楽しみのひとつなのではないかと思います。
 ところで、塩は味をつける以外に、さまざまな働きがあります。塩化ナトリウが含まれていれば、この調理効果はいずれも期待できます。次回は、この調理効果について、お話しようと思います。

  昔、まだ、専売制度が廃止されていなかった時に、“岩塩信仰”の強い洋食の料理人さんに会いました。たぶん彼は、ヨーロッパでの修行時に岩塩を使っていたのでしょう。岩塩はミネラルを多く含み、フレンチにはこれしかあわないと思い込んで、日本でもそれにこだわり、塊の塩をミルでひきながら使っていました。当時の日本には、まだ岩塩は輸入されていなかったはずですので、彼が日本で岩塩と信じて使っていたものは、今考えれば、大粒の海塩である「原塩」だったのではないかと思うのですが、信じて使えば、まあ、そんなものかと。ミネラルは確かに含んでいますし。今は、岩塩もいろいろでていますので、皆さまはどうぞ、味比べをしてみてください。微妙な味の違いがあって、これがミネラルの味かと思いながら、なめてみるのもおもしろいですよ。ちなみに、塩そのままなめるよりは、きゅうりにつけたり、スープに入れたりと、何かに加えて味を比べた方がわかりやすいようです。