『食の豆々知識』 Vol.18 みりん

私の現在の仕事のひとつに、お料理教室の講師なんてものがあります。そこで、“みりんと砂糖の使い分けがわからない”という質問をよくされます。一般の家庭では、なかなかみりんという調味料をうまく使いこなしていないようです。
今回は、調味料の“さしすせそ”に続き、“みりん”を取り上げてみたいと思います。

まずは、みりんはうるち米から作った麹に蒸したもち米、焼酎を混ぜてゆっくり熟成させ、圧搾し、ろ過して作ります。アルコール分は約14%あり、アルコールの分類から言えば、原料に醸造酒を加えて作るため混成酒にあたります。
この製法により、様々な効果が得られます。

○ 甘味をつける
米と麹により、砂糖にはない糖分が含まれ、それが、砂糖を使うよりも上品でまろやかな甘味をつけることができる。
○ コク、旨味をつける
上記の糖分や生成された天然のアミノ酸などによる独特の香気成分は、料理に旨味とコクを与える。
○ 生臭さを消す
加熱されるとアミノ酸と糖類が化学反応をおこし、魚や肉の生臭みなどの嫌な臭いを消すことができる。また、アルコールは、臭み成分を蒸発させる働きをもつ。ちなみに日本酒にも同様の作用があるが、日本酒は生臭さを覆い隠すのであって消すわけではない。また料理に独特の香りがつくので使い分けが必要。
○ てり、つやを出す
加熱すると糖分が素材の表面に被膜をつくり、更にアミノ酸と反応しててりやつやを出すことができる。砂糖+清酒で調理したものに比べ、焦げづらく、てりやつやの効果も高い。
○ 煮くずれをふせぐ
糖とアルコールの力で、細胞膜を溶けにくくする働きがあるため、煮物の最初の段階で少量加えておくと煮くずれを防ぐことができる。また、素材の旨味を逃がさないという効果もある。
○ 味の浸透性を向上させる
ミリンの糖分は砂糖の糖分よりも粒子が細かいため、アルコールの作用にもより、素材に早く染込むことができる。その時に旨味成分、酸なども一緒に染み込ませることもできる。また、液体なので、他の調味料と混ざりやすいということも特徴である。

*アルコール分には上記の効果があるのだが、調味料としてみりんを使う場合は、かえって邪魔になる場合が少なくない。そのため、分量が多い場合はまず、みりんだけを煮立て、アルコールを飛ばしてから使うようにする。これを煮切りみりんという。

ところで、戦後、アルコール分を含む本ミリンは、高い酒税がかけられ、また、酒販店のみでの販売を厳しく定められていたため、法の適用を受けないようにと、“みりん類似調味料(みりん風調味料または発酵調味料)”が開発されました。
これらは、アルコールを含まないものであったり、または、アルコールを含んでいても酒類として扱われないように塩を加えて飲めない状態にしてあるため、上記の効果や、みりん独特の風味は期待できません。
しかしながら、酒税法が改正され、本ミリンが買いやすくなった後も、本ミリンとみりん類似調味料の違いがはっきりしていないため、本ミリンの売上はなかなか伸びなかったようです。
ここ数年で、一般消費者の本物志向、高級志向もあり、本ミリンのニーズが高くなってきましたが、みりん単体での消費量は年々落ちています(麺つゆなどの加工商品の伸びが著しいため、トータルでとらえたみりんの消費量は横ばいくらい)。

ここで、今まで砂糖を使っていた料理を、みりんを使用してみるなど、一度みりんを見直してみませんか?みりんの独特の風味、効果により新しい料理が出来上がるかも知れません。

今回で、調味料は終わりにしようと思っていたのですが、調味料としての酒の使い方がよくわからない、というご意見を頂きましたので、おまけのおまけで、次回は、酒についてお話しようと思っております。

何年か前に、某メーカーみりんの冊子作りやタイアップ広告のお仕事をさせて頂きました。そのため、みりんについては、かなりの知識が身につき、ついついコラムも長くなってしまったのですが(笑)、まあ、それはおいておいて、その時に、本みりんを使った肉じゃがとみりん風調味料を使った肉じゃがの細胞を顕微鏡で見比べたり、また、てりを光沢度の測定器で調べたりと、上記の調理効果を目で、数字で見ることができました。すると明らかに違いがわかるのです(別に本みりんの宣伝をしている訳ではありません)。料理は化学なんだなあとつくづく感じた瞬間でした。