『食の豆々知識』 Vol.22 あさり

さて、今回からやっと旬や話題の食材を紹介していくことにしましょう。
今回は、今が旬の“あさり”です。潮干狩りの光景からも想像できるように、“漁(あさ)る”が名前の由来であるとされている、私たちの生活の中で1番身近な貝です。

<特徴・産地>
マルスダレガイ科の二枚貝。淡水の混じる河口や砂泥質の浅海に5cmくらいもぐって生息しています(この環境はあとあと出てくる砂出しに関係してきます)。
北海道から九州全域に分布していますが、最近は、中国からの輸入品がほとんど。地物では北海道産が人気のようです。

<旬>
1年中比較的簡単に手に入りますが、旬は、身がふっくらと太っている、冬から5月くらいまで。6月~9月(普通は2回)に産卵期を持つため、産卵後(10月)は身がやせていて、あまりおいしくありません。また、春から初夏にかけての産卵期は、中毒の恐れがあるのでなるべくなら避けるようにしましょう。
旨味成分の有機酸を多く含むあさりは、“ダシいらず”といわれていますが、特に、春先からグリコーゲン、コハク酸などの含有量が増えて、旨味が一段と増します。これからがおいしい季節ですね。

<選び方>
殻付きは、殻を固く閉じていて、水に入れると水管を出すものが新鮮。ちなみに、むき身の状態でも流通していますが、その場合は、身がはって弾力、つやのあるものを。缶詰は…、わかりづらいですけどね(笑)。

<砂出し>
バットなどに重ならないように並べ、薄めの海水程度(2~3%)の食塩水につける。水の量はやっと浸るくらい。冷暗所においておく(冷蔵庫は不適。水温が15℃以下だと砂を吐き出しづらい。また蓋をする場合は空気穴をあけておくこと)。
つまりは、貝が住んでいた生活環境になるべく近い状態にするということ。
夏場は3~5時間、冬場は8時間くらいがベスト。長時間同じ水に入れておくと、水も貝も腐ります。
ちなみに、“砂出しには鉄や鉄包丁を入れる”という言い伝えがありますが、これは、海水にも“鉄”が含まれているため、あさりが砂を出しやすくなるということのようです。迷信説もありますけれどね。

<調理のポイント>
1番の調理のコツは、火を通し過ぎないこと。長時間の加熱は身を固く、やせさせてしまいます。クラムチャウダーなど煮込みたい時は、口をあけたら1度取り出しておいて、食べる直前に加えて温めるようにしましょう。
砂出しをした貝は、貝同士をよくこすり合わせ、流水でしっかり洗い流すこと。むき身の場合は、塩水の中で振り洗いをします。
二枚貝の食中毒原因菌“ノロウイルス”は85℃で1分加熱すれば死滅させることができます。特に初夏から初秋にかけては食中毒を起こしやすいので十分に加熱するようにしましょう。
もちろん塩水につけたり、火を入れたときに口が開かないものは、死んでいるので取り除くこと。

<保存>
薄い塩水につけて冷暗所に置けば、生きたまま1~2日は保存できます(夏場以外)。
砂出し後、殻付のまま冷凍保存も可能。ただし、凍ったまま調理すること。解凍すると口が開かないので注意しましょう。

<栄養>
たんぱく質、脂肪は少ないが、鉄分、ビタミンB12が非常に多く含まれる。また、カルシウム、ビタミンB2、マグネシウムなども豊富である。つまり、貧血気味な方、特に妊産婦には最適な食材ですね。

ところで、昔、あさりのお味噌汁を作ろうとすると、モコモコと白い泡がいっぱい立ち、青みがかった乳白色な出汁が、取れませんでしたか?
しかし、最近そういった光景を見ないんです。また、昔は水だけでもしっかりと旨味があったように思えるのですが、今は何か物足りなく、出汁を少し足します。また、味も何かが違うんです。どうしてだろうと思ったのが今回、あさりをテーマにしたきっかけでした。
これは、産地に関係があり、何故だかは、はっきりされていないようですが、江戸前、つまり東京湾でとれるあさりだったからのようです。
ご存知のように、近年めっきりと東京湾のあさりは取れなくなり、スーパーなどに並ぶほとんどは、北海道産や中国産になりました。これら他の産地で取れたものは、アクは少なく、出汁は青みがかりません。出汁の出方も少なく、味ももちろん違います。
これが、きっと小さい頃の記憶と違い、違和感になったようです。昔の味を味わえないと思うとちょっとさびしいですね。
しかし、実は、身は、北海道産や中国産の方がふっくらとしていておいしいんです。
ですから、かなり贅沢ですが、安価な中国産のあさりをつかってじっくり火を通し出汁を出し、このやせてしまった身は佃煮か何かにするとして、別の、さっと火を入れただけのふっくらとした北海道産の身を散らばせた“深川炊き込み御飯”なんてのを最近は楽しんでます。

長くなってしまいました。さて、次回は、旬ではありませんが、巷でちょっとしたブームをひきおこした、“寒天”を紹介することに致しましょう。

ところで、産地として有名だった“深川”をあさりの料理の名前によく使いますが、これも、そのうちになくなってしまうんでしょうか…。あさりは、もう下町の味ではないんですね…。