『食の豆々知識』 Vol.34 白魚

 うちのそばに桜並木があるのですが、ちょっとカン違いをしたかのように、その中の1本だけが満開になっています。他の木はまだ、つぼみも膨らんでいないというのに…。
 旬がわかりづらくなったといわれる近年、それでも、春にしか見られない花、野菜、魚を、若干の(?)ズレはあるにせよ、見かけるようになり、春を感じるようになりました。
 今回は、春の魚、白魚(シラウオ)の話。

● 春告げ魚、シラウオ。
江戸時代、シラウオは、隅田川下流の佃島辺りが産地であり、隅田川に小舟を浮かべ、魚を集めるためにかがり火をたいた、シラウオ漁は、江戸の春を告げる風物詩だったそうです。そのため、シラウオは、江戸の春告げ魚とよばれます。雛の節句の祝い膳には、シラウオのすまし汁、というのが江戸の風習だったようです。
しかし、水質汚染のため、シラウオは東京の河川には、いなくなってしまい、今では、はまぐり(しかもこれまた、中国産がほとんど)のすまし汁が定番となってしまいましたが…。
ちなみに、佃島でとったシラウオを甘辛く煮たものを佃煮というようになったとか。今では、シラウオの佃煮なんて、高級すぎて食べられませんけどね~。

● “白魚のような指”とはどんな指?
最近は、めっきり、高級魚になってしまったシラウオですから、あまりお見かけしませんが、白く透き通っていてほっそりとした美しい姿をしています。そのため、女性の繊細な指を“白魚のような指”と例えたようです。
よく見ると尾ビレ、腹ビレの他に、サケ類特有の脂ビレがあります。サケ類には、サケ、シラウオの他にアユ、ワカサギ、シシャモなどがいますが、全長は10cmほどのこのシラウオ、アユなどの稚魚に似ていますが、立派な成魚です。
サケのように、早春の産卵期に、自分が産まれた川をさかのぼるため、ここで捕らえられるわけです。

● シラウオとシロウオは同じ魚?
ところで、この時期、TVなどで“おどり食い”が紹介されますが、実は、これ、非常に混同されやすいのですが、シラウオではなく、シロウオです。容姿も生態も、似ていますが、シラウオより小さく全長は5cmくらい。もちろん、脂ビレはなく、ハゼの仲間です。
死んでしまうと急速に味が落ちるため、地元で食されることがほとんど。生きたものを二杯酢に入れ、そのまま飲むようにして食べる“おどり食い”が有名ですが、吸い物や卵とじ、天ぷらなどにもされます。死んでしまったシロウオを料理して食べることもできますが、とある漁師さんいわく、“死んだら食えたもんじゃない”とのこと。
私は、“おどり食い”しか食べたことがないので、なんとも言えませんが。ちなみに、おどり食いは、シラウオよりも更に淡白な味で、というか、よく味わえないうちにのどを通ってしまったというか…。

● なんで、白魚っていうの?
シラウオは、生きているときは、透明なのですが、死んでしまうと白く不透明になります。シロウオも死ぬと、白くなりますが、シラウオはシロウオと違い、生きたまま売られていることは少ないようです。そんなこともあり、シラウオの方が、“白魚”のイメージらしいのかもしれません。ちなみにシロウオは、漢字では“素魚”と書きます。
でも、地方によっては、シロウオをシラウオと呼んだり、白魚と書いたりするところもあり、更にややこしい魚です…。
ところで、生きたまま売られていなくても、シラウオもまた、鮮度が落ちやすく、落ちると極端に味が悪くなります。ので、白魚とはいっても、完全に白くなってしまっていものではなく、透き通るようなつやのあるものを選ぶようにしましょう。

● 調理のコツ。
非常に繊細な魚です。洗う時にはうすい食塩水を用い、布巾でそっと水気をふき取ります。とにかく丁寧に扱ってください。
刺身、酢味噌和え、酢の物、天ぷら、フライ、吸い物、卵とじ、と、用途は様々ですが、個人的な意見で言えば、天ぷらが好きです。しかも卵の分量が多い、黄身衣揚げ。面倒ではありますが、衣はシラウオの形がわかるくらい薄くつけ、掻き揚げではなく、必ず一匹ずつ揚げて下さい。早春の味覚、ほのかなで繊細なシラウオが味わえ、幸せを感じます(笑)。

 今年は、桜の開花が例年よりも10日も早いそうです。春野菜も、例年よりも早くから店頭に並んでいるような気がします。
 温暖化が問題の今、多少の時期がずれるだけでなく、取れなくなってしまうことも、今後でてくるかもしれません。そんな悲しいことにならないよう、小さなことからでも、何かしていきたいですね。

ところで、やはり美しい容姿をした春の魚(秋にも旬はありますが)に、“サヨリ”があります。“白魚のような指”は、女性の褒め言葉ですが、このサヨリは、“腹黒”という意味があります。間違っても、容姿から “サヨリのような女性だね”なんて言わないように…。