『食の豆々知識』 Vol.35 ショートニング①

2007 年のイースター(復活祭)は、4月8日(日)でした。ちなみにイースターは、その年によって、日付が変わります。別に私は、クリスチャンというわけではなく、何に関してもお祭りごとが好きなので、ひな祭りには、手まり寿司と桜餅を作り、お彼岸には、ぼたもちを、お花見には行楽弁当、というようにそれぞれの行事を楽しんでいるわけで ... 。クリスマスもお正月もお祝いする典型的日本人ですから(笑)。まぁ、楽しみ方は、ほとんど食に偏っているような気もしますが ... 。

話は戻り、イースターには卵が付き物なのですが、何度かコラムでもお話させていただいている通り、うちにいる 3 歳児は、アレルギーっ子なため、卵は食べられません。殻で遊ばせるのもちょっと恐いので、なんとなくコロコロっとした形が卵に似た“ポルボローネ”というクッキー(口の中でホロホロっと溶ける、卵ポーロのちょっと大きめなクッキーみたいなものです。ほんとかな?)を作ることにしました。

もともとこのレシピは一般的にバターを使います。バターも使えない、うちのお菓子は、ほとんどショートニングを代用して作ることが多く、今まで、食感などは変わりますが、完全な失敗ということはありませんでしたから、今回もあたりまえのように、ショートニングで代用して作ったのです。が!丸めて、オーブンに入れるところまではよかったのですが、オーブンに入れてしばらくすると、みるみるうちに形がなくなり、スライムのようにだら~っとした別のものになってしまったのです。

一応、時間通り焼き上げ、冷めてからさわってみましたが(このお菓子は、温かいうちにさわると崩れやすいので)、見るも無残なかわいそうなものになってしまっていて ... 。

こうなると原因を解明したいのと、どうしてもショートニングでこのクッキーを完成したくなり、ショートニングについて調べることにしました。

という訳で、かなり今回は前置きが長くなりましたが、ショートニングの話。

●ショートニングは、“短い”“足りない”という意味?

ショートニングは、 19 世紀末のアメリカで、ラードの代用品の工業製品として開発されました。

「ショートニング( Shortening )」の名称は、「 short 」が語源ですが“さっくり”や“パリッ”という食感を表したり、“もろい”という意味です。

一般的に、クッキーは、小麦粉、卵、砂糖、バターで作られますが、このバターの量を変えるだけで、まったく食感の違ったクッキーが出来上がります。ふつう、小麦粉と水を練ると、グルテンが発生し、もちもちっとした弾力がでてきますよね。うどんなどはこの“コシ”の働きを利用したものですが、お菓子には必要ありません。油脂は、このグルテンが作られるのを防ぎ、ホロホロっとした食感に仕上げてくれるんです。これをショートニング性といいます。他にも、クリーミング性(空気を抱き込み、やわらかく、しっとりと仕上げること)などの働きがあります。

ショートニングは、これらの働きに加え、常温における伸びのよさ、生地への混ざりやすさなども優れているため、お菓子作りにはかかせないものになっています。

●食べもおいしくない?

では、バターとショートニングの大きな違いは、何なのでしょう。

大きな意味でいえば、動物性か、植物性かということ。バターは、牛乳の脂肪分を分離させ攪拌して練り上げたもの、ショートニングは植物性油脂に水素を添加して硬化させ、攪拌して練り上げたもの、です。

そのため、ショートニングは水分や乳成分を含まず、油脂 100% で、無色、無味、無臭。つまりは、そのまま食べてもおいしくない、ということです。

ちなみに、ショートニングは、ラードの代用品として開発されたものですが、バターの代用品として、マーガリンが開発されています。これも植物性油脂に水素を添加し練り上げたものですが、牛乳などの乳成分、香料、着色料などを加え、バターに近い風味に仕上がっています。

ここで、話はちょっとショートニングからずれますが、面白い実験を聞いたことがあります。牛乳のみから作った添加物の入っていない白っぽいバターと、適度に着色し、香料を加えたマーガリンを用意して、 20 人の人にパンに塗って食べさせた結果、多くの人が、バターを“出来の良くないマーガリンで口当たりが悪い”といい、黄色いマーガリンの方を“上等なバター”と答えたそうです。最近では、様々なマーガリンが開発され、バターの代用品の域を超え、パンにつけて食べる場合にはバターとマーガリンではあまり大きな差は見られないどころか、マーガリンの方が塗りやすさもあり、人気があったりもするようです。

ただ、こういった加工油脂の場合、加熱したときに大きな違いがでてきます。それが、“芳香、風味づけ”です。お菓子作りには、上記に記した働き以外に、やはり味と香りが大切であり、こればかりは、バターにしかまねできません。

今回は、ちょっと長くなってきたので、この辺で。前置きが長かったので、本題に入れませんでしたね ... 。次回は、おいしさ以外の、バターとショートニングの性質の違いなどをお話していきます。

それと次回こそは、ショートニングで、“ポルモドーネ”を成功させた話を(笑)。