『食の豆々知識』 Vol.36 ショートニング②

さて、今回も、前回に引き続き、ショートニングのお話。

● ショートニングはヘルシーな油?
性質の違いを説明する前に、最近問題になっているショートニングとバターの健康面の違いにふれてみましょう。
植物性の油、というと、なんだか動物性の油よりもカロリーが低く、ヘルシーな気がするものです。
もう20年以上前のことでしょうか。一時、"マーガリンは、植物性だからコレステロール値が低い"ということで、一般家庭の食卓から急にバターが消え、マーガリンになるといった現象(?)がありました。
しかし、実は、カロリーはほとんどかわらないのです。しかも、バターのほうが、消化がよかったり、添加物が入ってなかったりと、健康面で見直されている面も多々あります。あくまでも"適正範囲内"での話ですが。
そしてまた、マーガリンやショートニングを製造する水素添加時に生成される"トランス脂肪酸"が、動脈硬化などの生活習慣病やアレルギーの原因になるのではないか、という議論が注目をあび、欧米では、すでに、トランス型脂肪酸を含む油脂の販売が禁止になっています。
アレルギーがあるために、バターではなくショートニングを使用しているのに、そのショートニングがアレルギーを引き起こす原因とは、困ったものです。

● 融点の違いに差が出るものは?
さて、前回問題となった、なぜクッキーができなかったのかという話にやっとなりますが、まず原因は、融点の違いかと考え、バターとショートニングの融点を調べてみました。
バター:28~35℃ ショートニング:40℃以上
ということでした。確かに若干の違いはありますが、クッキーは160~170℃で焼きますから、あまり関係はないようです。
しかし、ここで、おもしろいことに気づきました。この差が大きく関わること、それは、パンの出来なのです。
パン生地の油脂の働きのひとつにパンのボリュームをアップする働きがあります。しかし、この油脂も固形脂であることが前提で、液状の油脂ではこの働きはしません。
バターの融点は、28~35℃と記しましたが、実は、28℃では7%くらいしか固形脂がなく、35℃では、まったくの0%だそうです。それに比べ、ショートニングは40℃でも固形脂は残っています。そのため、発酵時の状態に差がで、更には製パン性に大きな違いがでてくる訳です。
まぁ、私の様に、発酵温度もいいかげんだったりするパンにおいては、あまり関係ないですけどね(笑)。

● 結局のクッキー失敗の原因は?
結局私には解決できず、メーカーのお客様相談室に聞いてみることにしました。何社かのメーカーに問い合わせたところ、非常に丁寧に対応していただけるところから、そうではないところもあり...(笑)。
結論から言えば、粉に対する油脂の配合の割合の問題ではないかということでした。
油脂の働きには、前回ちょっとふれた "クリーミング性"や、"可塑性(かそせい)"というものがあり、これにより、バターケーキがふっくらと仕上がったり、パイ生地の層をつくったりします。この性質はバター、ショートニングともにあり、一般的には、どちらでも代用可というレシピが多いのですが、この働きに若干の差があるのではないかと。なかなか奥が深いものです。
そして、とても親切にも、ショートニングのみで作るポルボローネのレシピまで教えていただきました。

基本的に料理は、量らなくても作れますが、製菓・製パンの場合はそういう訳にはいきません。それは、材料の風味や味だけではなく、その性質を利用することが多いからなのかもしれません。
ところで、いろいろ調べている間に、ショートケーキの語源にぶつかりました。もともとのショートケーキ(アメリカ発祥)は、ショートニングを使用したもので、今のやわらかな生クリームたっぷりのケーキとは違い、ホロホロのビスケット生地にいちごがのっていたものだったという説が。本当かどうかはわかりませんが、確かに、今のショートケーキは、日本でしか見られませんけどね。

<私が失敗した、ポルボローネレシピ>
ショートニング・・・・・・・・60g
粉砂糖・・・・・・・・・・・・20g
薄力粉・・・・・・・・・・・・60g
アーモンドパウダー・・・・・・30g

<教えていただいた、ポルボローネレシピ>
ショートニング・・・・・・・・65g
粉砂糖・・・・・・・・・・・・50g
薄力粉・・・・・・・・・・・ 100g
アーモンドパウダー・・・・・・25g
  *とても親切に対応してくださったニップン(日本製粉株式会社)の相談室でした。ありがとうございました。