『食の豆々知識』 Vol.40  秋刀魚

サンマの美味しい季節になりました。

 最近では、解凍されたサンマが 1 年中安価で出回っています。サンマは、冷凍しても見かけも味もあまり変わらない冷凍向きの魚だと言われ、確かに塩焼きなどでは十分に食べられる美味しさなのですが、やはり、秋の味覚。なぜか、秋になると食べたくなる魚です。

ということで、今回はサンマの話。

サンマのホントの旬はいつなのか。

サンマは真夏の間、オホーツク海を回遊しています。プランクトンを食べて太ったサンマは、秋が近づいて海水温が低くなってくると、産卵のため南下してきます。

一般的には、 8 月上旬頃から千島列島沖を南下し始め、親潮に乗って 9 月から 10 月に三陸沖を通過、 11 月には銚子沖に達します。

以前は、関東でのサンマ漁の漁場は銚子沖だったので、そこまで南下してくるのを待っていたのですが、最近は流通がよくなったこともあり、もっと北で獲るようになっています。水揚高は全体の半数以上が北海道で、 8 月の走りの時期に高い値段で売られていることも多いようですが、旬は、エネルギーを一番蓄える 10 月下旬、福島あたりでとれたものが最も脂がのり、その後は脂が落ちてさっぱりとした味になります。

しかし今年は、 8 月の北海道産のサンマは豊漁で、旬のもののように脂ののりがよく、沿岸に近くでの水揚げだったため、鮮度もよいという話。通年の半値で取引が行われています。これは、今年のプランクトンの量が多かったこと、親潮の流れによるものだそうです。

ところで、江戸初期では、サンマは紀州産が本場だったそうです。当時は、寒流がかなり南下していたんですね。

サンマが早い時期から安価で旨いのは庶民にとってはうれしいことですが、温暖化現象だの、ラニーニャ現象だので、異常気象の今日、産地だけでなく、旬まで変わってしまうのか?と、今後いろいろと影響がでてきそうです。

•  立つサンマと曲がるサンマ、おいしいのはどっち?

サンマは漢字で秋刀魚と書きます。この字のように、新鮮なサンマは、尾っぽを手で持つと刀のようにシャンと立つのです。解凍されたサンマなど鮮度の落ちたものは、尾っぽを持つとぐにぁと曲がってしまいます。

魚は死後硬直の後、旨み成分のイノシン酸ができます。これは、肉も一緒で、牛肉が、と殺後 1 ~ 2 週間たった方がいいように、サンマも、シャキッと立つものより、 45 ℃ほど曲がるものの方が、塩焼きにはおいしいといわれています。ただし、サンマは牛とは大きさが違うので、 24 時間以内にはすでに塩焼きでおいしいものになってしまうのですが ... 。

鮮度を見分けるコツとして、上記のような方法がありますが、店頭でサンマをおもむろに持つわけにもいきませんから、なかなか難しいものです。

ところで、サンマにもウロコがあること、知っていましたか?ウロコのあるなしも鮮度を見分けるコツになります。ただし、サンマのウロコは取れやすく、集団で身体をこすり合わせるだけですぐに取れてしまいます。 1 本釣りのサンマならともかく、大網などで大量にひきあげる現在の漁法では、ほとんどのウロコはとれてしまうそうです。

ということで、通常、目利きは他の魚同様、目やエラを見るしかなさそうです。

ちなみに、口ばしが黄色いものは鮮度がいいとよくいわれるます。しかし、口ばしが黄色いのは、脂ののりがいいだけで、冷凍しても口ばしの黄色は残りますから、それだけで鮮度がいいとは言い切れないようです。

サンマのハラワタはなぜ食べるのか。

鱧と一緒で、サンマには胃がなく、腸も極端に短いため、食事から排泄までわずか 30 分。このため、サンマは、ハラワタを取り除かなくても済む数少ない魚です。

小さい頃、親父がサンマのハラワタを食べるのを見て、なんでこんなものを食べるんだろうと思っていたものですが、いつの間にか、私もこの苦味を好んで食べるようになりました。

しかし、ハラワタを食べられない主人は、“好きなんだろ。オレのもあげるよ。”と言うんです。さすがに苦いハラワタだけそんなに食べられません。

と、思っていたら違ったんです!産地で獲れたてのサンマをすぐ食べると、ハラワタっトロっとして甘いんです!!ハラワタだけでも美味しいんです!

獲ってから 12 時間がたつと苦味の強いアミンが生成され、 24 時間後には、苦いだけの肝臓になってしまうそうです。“サンマ、苦いか塩っぱいか”なかなか本当に美味しいハラワタは食べる機会がありません。

また、網の中で取れてしまったウロコをサンマが飲み込んでしまい、その内臓を食べるとウロコが口にあたります。これが、最近のサンマの内臓がおいしくなく感じる理由のひとつでもあるようです。

ちなみに、内臓は、カルシウムやビタミン類が豊富に含まれており、栄養満点。多少苦くても、食べる理由はあるようです。

今年は、 8 月の暑いうちから、サンマを日替わり定食などで使用しているお店も多く、先日のTVでも、 8 月の下旬の時点で、すでにサンマを食べたとインタビューに答えているサラリーマンが多く見られました。

サンマの季節はこれからです。塩焼き、最近では刺身が主流ですが、サンマは、水をベースにした日本料理、油をベースにした中華料理、牛乳やワインをベースにしたフランス・イタリア料理のいずれにも合うめずらしい魚です。 安価で旨いサンマを様々な料理でお楽しみください。