『食の豆々知識』 Vol.81 ドライエイジング

ドライエイジング、という言葉を聞いたことはありますか?

アンチエイジング?いえいえ、それは、最近私がつい雑誌などで目にとめてしまう言葉で(笑)。

ドライエイジングとは、肉の熟成方法の1つです。

アメリカやオーストラリアなどでは、今や、レストランやスーパーの中心的存在であるドライエイジングビーフ、すでに30年前には行われていたとか。

品質を重視した熟成は、その「やわらかさ」のみならず「香り」、そして飛び切りの「旨さ」と「味わい」 をもたられてくれる。

熟成のもっとも大切なことは、単に「科学」でもなく「施設設備」によるものでもない。

「肉屋」としての年月を積重ねた「熟練」によるもの。

この経験と細心の肉の「こころづかい」が牛肉を味覚の枠へと導く。

ドライエイジングビーフは「時を恩恵とした技術」である。

とは、ニューヨークのスーパーに表記されているドライエイジングビーフについて解説されている文章だそうです。

近年やっと日本でもドライエイジングビーフが販売されるようになり、注目されています。

 

● 熟成ってなに?

動物は、死後、筋肉の硬直を起こします。

屠殺直後、死後硬直しているお肉はおいしくありません。

硬直した筋肉は、時間がたつと硬直が解け、やわらかくなり、味や香りがでてきます。

これは、肉の中の酵素により、たんぱく質が分解され、旨味成分であるアミノ酸に変わるためです。

この過程を熟成(=エイジング)といいます。

熟成は、肉の種類により様々です。

一般的に鶏肉は12~24時間、豚肉は10~20日、牛肉は20日前後かけて熟成させるとやわらかく味の良いものなるといわれています。

魚も死後、硬直し、熟成もします。

お刺身は、ぷりぷりしているものの方が美味しいことが多いため、硬直している、鮮度の良いものが重視されます。

焼き魚などは、硬直が終わりかけた頃の方が、実は旨味を増し、おいしくなります。

しかし、魚の熟成期間は短いため、スーパーなどでは、見極めるのがむずかしく、どんな調理法でも鮮度がよい方が重視されています。

同様に、スーパーなどでは、肉の色をあざやかに出さなくてならないため、熟成の浅い肉を販売していることが多いようです。

十分に熟成されたお肉を買った場合、翌日には、家の冷蔵庫で色が黒くなってしまうからです。

 

● ドライエイジングは何が違うの?

日本での一般的な熟成方法は「ウエットエイジング」といいます。

ウエットエイジングでは、0~2℃くらいの冷蔵庫で、さらしに巻いたり、真空パックに入れたりして、「湿度」を管理しながら熟成させます。

一方、ドライエイジングは、乾燥熟成、つまり、冷蔵庫で表面が露出した肉に、扇風機をまわしながら熟成させます。

ドライエイジングでは「温度」「湿度」に加え「風」をコントロールすることがポイントとなります。

そして、更に、「微生物」よる発酵も重要な技術なのだそうです。これが、ドライエイジング独特の香りをだします。

熟成がすすむと、表面は乾燥し、カビが生えます。

そして、その部分を取り除くと中から、ジューシーで香りのよい熟成された肉がでてくるのです。

そのため、ドライエイジングでは、熟成期間が1ヶ月以上もかかる上、歩留まりは4割も減ってしまうそうです。

しかし、ドライエイジングを一度口にするとその美味しさに虜になるといわれています。

 

● で?結局おいしいの?

ということで、ドライエイジングビーフが食べられるという焼肉屋さんに行ってみました。

上記のことから、価格が高いのかと思い気や、意外や意外。

和牛とあるのに、大手焼肉チェーン店ほどの価格(これは、市場から直接仕入れることで実現した価格だとか)。

そして、もうひとつ意外だったのが。

ドライエイジングはアメリカの赤身の肉の熟成法として有名だったため、赤身の肉を想像していたのですが。

ロースでも思った以上に脂がのっていました。

でも。おいしい。

基本、焼肉はカルビ好きの私ですが、ロースがおいしい。

ぱさついた感はほとんどなく、ジューシーで旨味がありました。

この値段で、これは。

もっと、赤身の部分を食べてみたい気もしましたが、いろんな部位のエイジングビーフが楽しめたのもひとつ。

これは、私の個人的な感想ですが。

 

TVで、このお店が紹介されていたときに、常連の年配の女性客が、“もう、脂のあるお肉は食べられないけど、ここは赤身がやわらかくておいしいしから、焼肉はここにしか来ないのよ~”なんてことをおっしゃっていましたが。

これからの高齢化社会、ここがポイントかもしれません(笑)。

「エイジング=年をとる」ではなく、「エイジング=熟成」となるよう、私もがんばりましょう(笑)。