石田義昭の【飲食店 繁盛ダネ!】その八十七

「“あの子”は初めて見るけど、凄くいいねえ」。

「いやあ、私も身近に仕事ぶりを見るのは初めてですが、感心しました」。

 

『あきらめるな、素晴らしいスタッフは必ず現れる』

渋谷のラーメン専門店「渋英」の社長 望月氏と二人でミーティング後、店舗へ視察した時の会話です。

“あの子”とはまだ若い可愛い女性で、聞くところによると中国人だそうです。

石田が凄くいいと言ったのは若く可愛いからではなく(笑)、その仕事ぶりが実にいいからです。

外の看板メニューを見ているお客様には声をかけ、注文のお客様にはきっちり商品説明をしています。

接客用語も適切で、お客様に対する気配りが感じられ、活気も明らかにこの女性から創られているようなのです。

「業績が落ちる店が出てきたら“あの子”を送り込んだら?すぐ戻っちゃうかもね」。

「ホントそうですね。店長が負けちゃう感じですよ」。

そうなんです、この子から感じる良さは接客の巧さや声・しぐさがいいというだけではなく、〈売り上げを作る〉〈お客様を逃がさない〉という、経営者的匂いがぷんぷん感じることなのです。

石田が思ったその時の感じは〈我々の仲間がいる、嬉しい〉でした。

望月氏もおそらくそのように感じたのでしょう。

彼女が就業時間を終え、あがる時に声をかけました。

「君はしっかりした、いい仕事しているね。頑張っているね。ありがとう」。

「ホント、凄くいい仕事しているねえ」と石田も後ろから声をかけたのでした。

ところが、その彼女は、こちらが予想する反応ではありませんでした。

キョトンとしているのです。

何を褒められているのか解らない様子なのです。

「ありがとうございます。お先に失礼します」と明るく帰って行きました。

当たり前のことしいているのに、何でこんなに褒められるんだろう、というのが彼女の気持ちなのでしょう。

考えてみれば、アルバイトやパート、社員と呼ばれる人たちの多くは“仕方がない”から今の仕事をやっている、マンネリになっているのではないでしょうか。

それゆえ他人に感動を与えるような仕事をする人が少ないのではないかと思うのです。

今、目の前にある仕事に全力で取り組むのは本来当たり前のことなのです。

その瞬間、瞬間の積み重ねが人生になるのですから。

石田もそのことを彼女から再確認させられたような気がしました。

気持ちよく帰宅した石田の携帯に滋賀の社長からメールが入りました。

「新卒一年目の社員がいますが、母親から電話があり、もう5日間も行方が分からないのですがどうなっていますか、と聞かれました。彼からは親戚の家に不幸があり、休ませてくださいと相談され、忙しい週末を仲間のスタッフが頑張るということで3日休ませましたが、その後いろいろあって帰れないと、さらに休んでいるのです」とのこと。

その後、彼は彼女と旅行に行っていたことがわかりました。

ホント嫌になっちゃいますね。

それでも「あきらめるな、素晴らしい社員はきっと現れる」と言わずにはいられないのは素晴らしい社員がいる会社がちゃんとあるからです。

そして素晴らしい社員は、一握りでも充分会社を機能させるからです。

“素晴らしい社員を創る”がホントですがね。