『飲食店は空腹を満たすだけでなく、心を満たすことこそ社会的存在意義がある』と言われて久しいですが、お客様の「心」を満たし、お客様を呼べる接客・サービスを、どのような心の持ち方で、また、具体的にどのように表現していくのか、そしてチーム(お店)としてどのようにそれを個々のスタッフに落とし込み、お店の価値を創造していくのか等のヒントを分かりやすく、そして楽しく綴っていきたいと思います。

 さて、皆さんが考える接客・サービスを行なううえで一番大切な要素とは何でしょうか?
礼儀正しさ、とびきりの笑顔、スマートさ・・・様々な答えが返ってくることでしょう。業種・業態によって、サービスの方法やオペレーションは様々ですし、それらによって違いがありますが、どんな業種・業態でも共通して一番大切な要素があります。
それは、「ホスピタリティ」という概念です。
ご存知の方も多いとは思いますが、「ホスピタリティ」とは思いやり、心遣い、親切心という意味合いを持ちます。
アメリカではホテルやレストラン業を学ぶ大学の学部を、「ホスピタリティ学部」と名付けています。
日本ではまだ名残のある「水商売」的な発想は全く見当たりません。

 ここで、私の顧問先のイタリアンレストランに届いた一通のお手紙をご紹介します。

《先日、仲間数人と貴店で食事をしました。いつもはアラカルトで注文することが多いのですが、このときはちょっと奮発しておすすめのコース料理を頼みました。
  前菜、スープ、パスタに続いてお肉料理が運ばれた時です。おそらくアルバイトの方だとは思うのですが、女性の店員さんが、ふと私の手元を見て「お肉を切って参りましょうか?」とさりげなく尋ねてくださったのです。
皮膚炎を少し患っていた私はそのとき手に包帯を巻いていたのでが、おそらくけがをして手が不自由なのではと気遣ってくださったのでしょう。
  普段から店員さんの感じが良いなぁとは思っていましたが、このときは特に温かな豊かな気持ちで過ごすことができました。ますます貴店のファンになりました。》


 「ホスピタリティ」を日々の営業の中での接客・サービスや運営そのものに表現できるお店がお客様の心を満たし、呼べるのです。
そしてこれはどれだけ時代が変わっても、通用するものなのです。
「人についたお客様は浮気をしない」とも言われますが、先ほどのお手紙を見てもそのことが良く分かります。
皆さんのお店では灰皿の交換を教える際に「吸殻が3本になったら灰皿を交換する」という風に教えてはいませんか?それだけではサービスを教えたことにはなりません。「作業」を教えただけになってしまいます。
「ああ、もう吸殻が3本もたまっている。これではせっかくのお料理がまずくなってしまう。早く取り替えて差し上げよう」となるように意識付けをしていくことが大切ではないでしょうか。
私が現場で働いていた時には勤務初日のスタッフに最初にオリエンテーションとして「あなたが彼女(彼)を初めて家に招いた時どうするか」を例に取って質問や会話をしながら「サービスの意義」を教えたものでした。 

サービス=ホスピタリティなのです。サービス=作業となっているお店とは、雲泥の差が出てくることでしょう。