コラム

井上奈々子の『食の豆々知識』

2013年4月9日

Vol.106 アレルギー事故

今回は、昨年末にあった事故、およびその報告を見て、どうしても伝えたいことがあり、普段とはちょっと違った豆々知識です。

および、長文となってしまいましたが、よろしければ、お付き合いください。

昨年12月、調布市の小学校で、給食直後に食物アレルギーのある5年生の女児が死亡するという、大変ショックな事故があった。

同市教育委員会の検証委員は、3月12日、学校側のミスの連鎖が事故につながったとする報告書をまとめた。

参考:http://www.city.chofu.tokyo.jp/www/contents/1363069358235/files/kensyou.pdf

問題は、メニューの中の「ジャガイモのチヂミ」だった。

乳製品のアレルギーがある女児は、チーズ抜きの「除去食」が用意され、トレーの色も別にしたものを調理担当者が直接女児に手渡していた。

しかし、女児は担任教師におかわりをもとめた。

女児の母親が作ったおかわりリストには、おかわりをしてはいけないという印がついていなかったからだ。

担任の手元にも、栄養士と保護者が確認して作った除去食一覧の確認リストがあった。

ここには、チヂミに×印がついていた。

しかし、担任は、この確認を怠り、女児に言われるまま、おかわりを与えてしまった。

30分後、担任が女児の異常に気付く。

女児は、持病の喘息の吸入器を吸いながら、「気持ちが悪い」と訴えた。

担任は、女児の持ち物から、「エピペン(アレルギーの発作を抑える緊急用注射)」を出して、「これ打つのか?」と聞いた、女児は、「違う、打たないで」と答えた。

5分後、養護教諭がかけつけ、救急車を要請。

女児がトイレに行きたいと言ったので、おぶってトイレに行くが、トイレに座らせると、すでに反応はない。

5分後に校長がかけつけ、更に5分後に救急車が到着。

その場で、心肺停止が告げられた。

異常を訴えてから、20分足らず。

最終的にエピペンを打ったのは、症状が出てから14分後、校長が駆けつけてからだった。

女児の摂ったチーズの量は、1gにも満たなかった。

検証委は、料理を渡した「担任の責任は重い」と指摘。

さらに「エピペンを打つタイミングが遅れた」とし、緊急時の対応にも大きな問題があったと判断した。

報告書は、適切な対応をしていれば「女児の命を守れたのではないか」とし、学校の危機管理意識が欠如していたと結論づけた。

文部科学省は、2008年、学校給食法を改正し、アレルギーのある子にも可能な限り給食を提供するよう学校に求めた。

給食も教育のひとつとする食育の視点からである。

しかし、実際にどうするかは、学校に任され、ガイドラインはあるものの、おおまかな内容でしかなかった。

今回のこの事故は、アレルギーのある子にも給食を提供しようと取り組みの中でおきたものである。

同時に、この学校の教師は、アレルギーやエピペンの講習も、受けていたという。

結局、誰が悪いのか。

おかわりを確認もせずに渡し、また、エピペンのタイミングをはずした担任の責任なのか。

喘息、失禁というアナフィラキシーの症状をすぐに読み取ることができなかった養護教員がいけないのか。

アレルギー・エピペンの講習を受けていたにも関わらず、危機管理がなっていない教師あるいは、その指導者、校長が悪いのか。

または、現場に任せすぎた教育委員会、あるいは、文部省が悪いのか。

ネットでは、「自己防衛すべきだ」と女児やその母を非難する書き込みも目立つ。

アレルギーの子は、給食を食べなければいいのか。

おかわりをしなければいいのか。

お弁当を持っていけば、絶対に事故は起きないのか。

しかし、知ってほしいのは、食物アレルギーを持っている人は誰でもアナフィラキシーをおこす可能性があるということ。

どこで、コンタミネーションがあるかわからないということ、遅延型、運動誘発性も考えられるということ。

たぶん、資料から見ても、母親と女児、学校の話し合いは、かなり密度に行われていたはずである。

それでも、足りなかった。

文科省の調査によると、平成16年時点で食物アレルギー疾患を持つ小中高生は、全体の2.6%にあたる約33万人で、アナフィラキシーは0.14%。

アレルギーのある子供を持つ母親に子供の食物アレルギーの対応として行っていることを尋ねると、4割が特に何もしていないという。

子供の友達に食べ物を提供するときに確認していることでは、「食物アレルギーの有無」は、食物アレルギーのある子供の母親は58.4%だったが、食物アレルギーのない子供の母親は35.9%だった。

一方、子供の友達に食べ物を提供する際、好き嫌いの有無を確認しているのは、食物アレルギーを持つ子供の母親は46.8%で、食物アレルギーのない子供の母親は51.9%だった。

この数値を見て、感じたのは、アレルギーについて、知らなすぎるということ。

女児のご両親からの手紙には、

『娘の死をきっかけに、食物アレルギー対策の重要性が再認識され、多くの人たちが改めて動き始めるのであれば、娘は「うん、それならいいや」と言うような気がしています。

彼女の未来に向けた思いに応えてほしいと思います』とあった。

しかし、たぶん女児とご両親の希望とは裏腹に、現状は、この事故が起きてから、おかわりを禁止に、除去食を廃止にした学校が増えている。

現に、うちの子供が通っている学校も、アレルギー児のおかわりは、禁止となった。

事故を起こさないということが、大前提である。

しかし、事故を恐れて、取り組まないということは、正なのであろうか。

今、ファミリーレストランを始め、様々な外食産業で、アレルギー食の提供を行っている。

事故の危機管理は、きちんと行われているのか。

事故を恐れて、提供しないことが、正しいのか。

学校給食に関わらず、食に関わるすべての人がアレルギーの理解を深めてほしいものである。

最後に。

亡くなった女児が作った版画に添えられていた詩より。

“わたしは みんなとちょっとちがう

ちょっと しっぽが みじかいし

ちょっと ひげが ながい

でもママが「それでいいのよ」っていってたの”

彼女は、今のこのアレルギーに対して後退している現状をどう感じているだろうか。

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