コラム

井上奈々子の『食の豆々知識』

2014年1月5日

Vol.115 ソフト食

2013年12月21日の朝日新聞フロントランナーに「管理栄養士 黒田留美子さん」の記事がのっていました。

「ソフト食」を開発された方です。

今回のコラムは、知識というより、新年を迎えた私の決意(笑)。

ソフト食とは、「きざみ食」から、「ミキサー食」の前の段階の介護食のこと。

特徴は、

○舌で押しつぶせる硬さであること

○すでに食塊となっているような形であること

○すべりが良く移送しやすいものであること

従来、咀嚼低下の方には、きざみ食、嚥下の困難な方にはミキサー食というのが一般的な介護食とされていました。

きざみ食は、「噛む」という行為をなくすために、普通の食事を全部まとめて包丁で細かく刻んだもの。

ミキサー食は、誤嚥をなくすため、普通の食事に水を加え、全部まとめてミキサーにかけ、ドロドロにした状態もの。

どちらも、あまり手間がかからないため、提供する側としては都合がよかったのかもしれませんが、見た目、見栄えが悪く、どんなものを食べているのか、どんな具材が入っているのか全くわかりません。

これでは、食欲がわく訳がありません。

また、きざみ食に関しては、飲み込む力が衰えてきた方には、むせやすく、誤嚥を引き起こすこともわかってきました。

「食堂に行くと、職員が料理に薬を混ぜて流し込むように食べさせていた。認知症の女性ににらまれた。

『まずいんだよ』という声なき声が聞こえ、食の虐待だと感じた。」(朝日新聞より引用)

ここから、黒田氏は、やわらかいけれど、しっかり食べ物の形がある、見た目もきちんとおいしそうである食事=ソフト食の開発に力を注ぎます。

食材ごとにそれぞれミキサーにかけ、つなぎを加えて固め直し、形作ります。

たとえば、えびの天ぷらであるならば、身をミキサーでつぶし、まとまりやすくするために長芋を練り込んで形作り、本物の尻尾も添える、というものです。

初めは、ただでさえ人手が足りない施設で、「食べさせるのに時間がかかる」と職員から冷ややかな言葉があびせられました。

しかし、今までのように、えびの天ぷらに水を加えてミキサーでドロドロにし、ゼリーでとろみをつけたものとでは、食べる側にとって、比べようがありません。

食べ残しが減る、体重が増える、自ら歩いて食堂に来るようになる、「次はなんじゃろな」と食事を待ち望むようになる。

現場が変わり始めます。

黒田氏は57歳で大学院に入学し、更にソフト食を研究。

現在は全国でソフト食の講演、研修会を開き、将来的には、家庭の食卓でソフト食が普通にたべられるようになってほしいとのこと。

食べるということは、空腹を満たすということだけではありません。

また、栄養をとる、ということだけでもありません。

噛むことは、脳に刺激を与えます。

食べることを楽しむということは、生きる力をひきだします。

黒田留美子氏、ソフト食の開発にのりだしたのが、94年。

現在64歳。

この記事を読んで、食の仕事をしている以上、私もまだまだ何か、がんばらなければと、心に誓った新年でした。

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