コラム

井上奈々子の『食の豆々知識』

2005年1月14日

Vol.7 続塩

 さて、前回に続き、塩のお話。塩には、味をつける以外に、調理する上で欠かせない、様々な働きがあります。今回はその塩の働きを、日々なにげな~くやっていること(または調理の基本)を例にお話していこうと思います。

① 脱水作用

塩を振るか、濃い食塩水に漬けると、食材から水分が出てきます。これは浸透圧の作用によるもので、きゅうりの塩もみや漬物などはこれを目的としています。
ですから、「和え物は食す直前に和える」、「肉や魚を焼くときは、塩を直前に振る」ようにしましょう。この作用があるために、早くから和えると和え衣の塩分により食材から塩分が出てしまい、せっかくの和え衣が水っぽくなります。また、肉や魚(特に白身)に塩を振って置いておくと、水分と一緒に旨みまで出てしまいますし、更に硬くぱさぱさになってしまいます(青魚などに塩をしてしばらくおくのは、水分と一緒に臭みも取るためです)。
ちなみに、野菜や刺身用のつまを冷水に放つのは、この作用を逆に利用したもので、ピンと張りが出るのは、水分が食材に入ってくるからです。

② 酵素反応の抑制

りんごや桃などの皮をむくと、みるみるうちに褐色に変色します。これは、ポリフェノールという成分が酸化されメラニンという褐色の物質に変わるためで、塩はこの渇変を進める酵素の働きを抑えます。
渇変も起こさず、甘酸っぱさと薄い塩味が合い、味もよくなるので、「りんごはむいたらすぐに薄い食塩水につける」のです。また、じゃがいもや、長芋なども、皮をむいた後に、水つけるだけでも良いのですが、ひとつまみ塩を入れておくと更に色がきれいに仕上がります。

③ たんぱく質の凝固作用

塩には、たんぱく質を固める作用があります。
魚のすり身や挽き肉を練るときには、まず塩だけを入れ粘りを出してから他の調味料を加えます。小麦粉に塩を入れると粘りが増すのもこの働きによるものです。
パスタを茹でるときに塩を入れるのは、味をつけるためだけではありません。パスタの乾麺にはほとんど塩分が入っていませんので、茹でるときに塩を入れることでアルデンテに仕上がるのです。ちなみに、うどんは麺に塩分が入っていますので湯に塩は入れません。
また、ポーチドエッグをつくる時に、湯に塩を入れるのもこの理由からです。卵白の固まりを早め、形よくやわらかに仕上げます。
ところで、これらの効果を十分にあげるには、1~1.5%の塩分が必要とされています。水1Lに対し10~15gの塩を入れることになります。これは、思っているよりもかなりの量です。皆さまは、このくらいの量を加えていますか?

他に、

④ クロロフィルの安定化

⑤ 植物の細胞膜の分解作用

⑥ 防腐・保存作用

などの働きがあります。が、この話は長くなってきましたので次回にすることに致しましょう。

昔、私が小さい頃、祖母がよく、りんごをむいて冷蔵庫に入れておいてくれたのですが、そのりんごがいつもしょっぱくて、私はあまり好きではなかったことを思い出しました。ものには適度の量というものがあるようです…。

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